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 カルチャーの融合
〜ネットベンチャーと手を握る大手企業(続編)〜


  生鮮食料のECサイトを運営するオイシックス株式会社(本社:東京都品川区、代表:高島宏平)は、生産地や加工方法、流通状況、ブランド名などの全ての取扱食材に関して情報の開示状況を監査することを目的とした中立機関「食質監査委員会」の新設を決定した。ネット業界では、あまり騒がれることのなかったこのリリースだが、食品業界各紙は一斉にこれを報じ、過敏な反応を示したという。

 今年6月22日、それまで学生ネットベンチャーとして年商1億を売り上げていた株式会社コーヘイと、日商岩井、ヒューレットパッカードとっいた既存大手企業が提携を発表。生鮮食料という分野に事業を絞り、オイシックス株式会社という新社名、新体制で再スタートした。

 それから3ヶ月。現在同社では、ネット業界と食品業界という「カルチャーの違い」をどう受け止め、どこへ向かおうとしているのか?

                             


 

         ネットビジネスへの序章
          
 〜有限会社コーヘイの設立〜                           


  「はじめは、ただ何となくですね。当時はインターネットもベンチャーも、そんなにはやってなくって。学生時代に "起業"っていうのもやる価値あるかな、とね。資金が全くない状態で、自分達にしかできないことを考えたときに"インターネット"がでてきた」。

 高島宏平氏が、オイシックス株式会社の前身となる有限会社コーヘイを創業したのは、1996年のこと。大学院進学すると仲間3人で、大手パソコンメーカーのプロモーションをかねたイベントを開催したり、秋田県のとある街でひらかれた「鉱山サミット」をネットで世界に生中継したりと、ITに関連した様々なチャレンジを行っていた。

 「実際にやってみると、これはなんでもアリだなぁ。無限に掘りようがある。じゃあ、思いつくことからやってみよう。ってなったんですよ」。

  インターネットに集中してからは早い。一ヶ月ほど徹底してインターネットを調べ、アクセサリー販売サイト「クロムハーツナンバー1」、格安航空機チケット販売サイト「ギリチケ」など、EC分野の中でも特に若者をターゲットにしたサイトを次々に立ち上げた。










株式会社オイシックス
代表取締役CEO
高島宏平氏
(コーヘイ創業者)



株式会社オイシックス
代表取締役COO
吉田卓司氏
(前コーヘイ社長)

「法人化した97年に、5000万円くらい売り上げたんですよ。インターネットをつかって、しかもEC分野でというと、当時はまだ少なかったですからね。メディアとかにも結構取り上げられて。もしかしたらこれは、すごいオポチュニティ(好機)があるな、と」。

  だが高島氏は、大学院を卒業すると同時に、大手外資系コンサルティングのマッキンゼーに入社。コーヘイに籍を置きつつも、当時一緒に働いていた吉田卓司氏に社長の座を託し、実質的には経営の最前線から一歩、距離を置いてしまう。

  「一回ベンチャーをやっちゃうと中毒みたいのがあって。これはたぶんベンチャーで将来生きていくしかないんだろうなと感じたんですよね。でも本気でそう思うほど、このままだと小っちゃな成功はしても、大成功する感じがしなかった。当時の仕事って、すごくバクチ的な要素が強いんですよ。誰にたまたま出会って、誰に気にいられるかで決まる。みたいなね。どうやってこの人に気に入いられるようにしていくかとか、自分で事業をコントロールをしているという感じじゃ全然なかった。本気でやるとしたら、それはちょっと違うなぁと。それで、吉田とかといろいろ話して、いわゆる戦略を立てるとかのスキルを僕が、ベンチャーのオペレーションというか、現場の部分を吉田が身につける。ということになったわけですよ。で、2、3年したらまた一緒になろうってね」。




飛躍への兆し
                  
〜食品分野への進出〜

                     






Oisix
http://www.oisix.com



 一方、吉田卓司氏による新体制のもと、株式会社コーヘイも、さらなるチャレンジを続け、2000年の売り上げ予測で、1億円を見込める程に成長していた。
 1999年秋、これまで培ってきたノウハウから、同社は事業を食品分野に注力していく決断を下す。もちろん、高島氏も含めた話し合いの末の結論だった。

「まず、"ネットじゃなきゃ出来ない事をやりたい"っていう強い思いがありましたね。例えば、ファイナンシャルプランナーとかって、ネットとの相性がすごく良いじゃないですか。だったら、それをフード(食品)でもできないか?って考えたんですよ。徹夜明けに、なんか健康的なモノを食べたいけど、何を食べたらいいか相談できたら、結構便利でしょ」。

 一人一人に対応する食に関する専門家。それを、ネットを使えば実現できると、経験から同氏は判断していたのだ。

 


 
「ビジネス的観点から考えると、やはり"繰り返し"利用してもらえるサービスじゃなきゃいけない。「食」という分野は、その点からも、魅力的ですよね。それに、食品流通業界や農業界をいろいろ調べると、どうしても体制が古いんですよ。別に誰が悪いとかじゃなくて。みんなが、なんだか回りくどい努力をしてるんです」。

 ネットの最大の魅力は、効率化にある。従来の体制が根強い分野であるほど、ネットとの融合を果たしたとき、成果が大きいのだ。さらに高島氏は、最後にこんなことも、"理由"に付け加えた。

「この分野って、日本でも米国でも、誰も成功してないじゃないですか。それって、僕らにとっては、すごく嬉しいファクターなんですよ」。

誰も成功してないからこそ、成功させる・・・  


かくして、2000年1月15日。有機野菜販売サイト「e831.com」がスタートする。それは、BtoC分野に特化して様々なチャレンジを繰り返してきたコーヘイの一つの結論であり、食品業界への挑戦だった。
 




強力なパートナー
                  
〜日商岩井との提携〜




2000年6月22日
記者会見にて




日商岩井叶カ活創業
カンパニー プレジデント
松村昭男氏







日本ヒューレットパッカード


 「一時期、既存企業とベンチャーの戦い!とかって騒がれたじゃないですか。僕は、何で互いに手を握らないのかが不思議でしょうがなかった」。

 2000年6月22日、株式会社コーヘイと、日商岩井、ヒューレットパッカードとの提携記者会見が開かれた。資本比率で、日商岩井14%という、対等な協力関係に、多くの記者が驚いた。質問も「なぜ、大手商社が、設立間もないベンチャーと一緒にやる必要があるのか?」という一点に集中した。

  「日商岩井が行っている例えば、サプライチェーンなどで、いくらネットを活用しても、その99%はBtoBなんですよ。でも、BtoBでは、どうしてもコストダウンのツールにしかならない。本当にBtoBを活かすためには、BtoCをきちっと行わなきゃならないわけですよ。そして、BtoCの部分は、既存企業には、非常に難しかった」。

  と話すのは、現在日商岩井からの出向という形で、オイシックス取締役副社長をつとめる福井栄治氏。オーガニック分野では、最大手の日商岩井から見ても、ネット販売のみのBtoC販売で3年間、すでに1億を売り上げるコーヘイは、素直に魅力的だったという。
 
  「例えばサービス体制にしても、24時間体制で、問い合わせ対応や、ウェブの作り込みなんて、日商岩井では、ちょっと難しい。そして何より、マーケティングが決め手になった。リアル店舗のマーケティングは、もちろんやってきましたよ。でも、ネット上では、誰もやったことが無かった。その時すでにコーヘイは、3年間そのノウハウを蓄積してたわけですよ。年商1億円というきちんとした実績とともにね」。


当時、福井氏は、日商岩井オーガニックグループのグループリーダーをつとめており、2000年2月に、コーヘイの高島氏や吉田氏と出会っている。そして、ちょうどそのころ、コーヘイ側では、全く逆の悩みを抱えていた。

  「僕らは、ネット上のサービスしかやってきてないですよ。だから、ネットのインターフェイス側や、そこで起こるトラブルとかも何となくわかる。でも、実際に有機野菜販売サイトをスタートさせると、食品ですから、非常に取り扱いも難しいし、日常生活の土台になるレベルで提供するまで、規模を拡大することを考えると、とても厳しかった」(高島氏)。

"もうこれは、どこからかサプライソースを持ってくるしかない"

すぐに高島氏から提案する形で、提携に関する具体的な詰めの作業が始まった。

「確かに、一番最初は株式の33%以上持ちたいという話はあったんですよ。でも、コーヘイ側も、日商岩井の傘下には入りたくないという思いがあったし、日商岩井としてもそれによって、ベンチャーの良さを消したくなかった。だから、お互いに一番良い関係という意味で、比率も始めに14%、こないだの増資で約10%になったんです」。

 福井氏が話すように、日商岩井側がBtoC分野の開拓に際して重視したのは、資本比率的な観点よりは、ある意味ベンチャー企業としての、コーヘイであり、そのマーケティングノウハウをすぐに活用できる「スピード」だった。

  「僕は、ネットベンチャーの運営と、コンサルティング会社の一員として、大手のネットビジネスというものを肌で体験してきた。すると、大手企業が困っていることは、実はベンチャーが実際にやっていることだったり、逆にネットベンチャーが困っていることは、大手に持っていけば一発で解決することだったり、そういうことが、非常にたくさんあったんです。だから・・・」。

  だから、高島氏は、大手とベンチャー対決ムードを煽っていたマスコミが不思議でしょうがなかった。手を握れば良いのにと思った。そして、その具体的なスキームを常に描いていたのだ。絶妙なバランスを保ちながら、大手と提携関係を結んでいく。その肝になる要素は、いったい何なのか。

「一つは、やっぱり、最初に絵を描くというのがあると思います。実際にはどうしても、提携ありきでプロジェクトがスタートすることが多い。でもそうすると、具体的にオペレーションに落とした時に、これってどっちの仕事でしたっけ?という具合で揉めてしまう。だから、どういう絵なのか、それぞれの塗り絵の分担はどうなのか。という部分まで、自分たちで描いて持っていったんです。具体的に、誰がウチにきて、こういった役割をもち、提携先企業の事業とどうやって連動するのか。とか、まずこちらから提案して、それを詰めていった。アライアンスって、組む事が目的なんじゃなくて、組んだ後にそれを回して、結果を出すことが目的じゃないですか。その辺をいかに事前に設計し、お互いに納得し合えるかが、一番重要何じゃないですかね」(高島氏)。

カルチャーの融合
            
〜ぶつかり合いが生むパワーと、その成果〜


 

 


株式会社オイシックス
取締役副社長
福井栄治氏



 

 オイシックス株式会社となって、3ヶ月。 現在オイシックス内には、吉田氏のように学生からコーヘイで働き、そのままオイシックスに残った社員。高島氏のように、学生時代にベンチャーを経験し、一度既存企業に就職した後、再びネット業界に戻ってきた社員。そして、福井氏のように、既存企業から、突然ネットの業界に入ってきた3パターンの社員が混在している。

  「ほんと、混乱するんですよ。まぁ、
あえてそうしたところもあるんですけど・・・面白いですよ」。

 高島氏は、現状が混乱していることを、意外にも素直に認めている。それどころか、面白いと。

 「いろんなカルチャーがぶつかって。そのぶつかりで、プラスのエネルギーにするか、マイナスのエネルギーにするかっていうのが、非常に大きい。そのプラスのエネルギーに換えるのってやっぱり、"共通の目的意識"になるんじゃないですかね。それがあるから一緒にやってる。共通の目的意識に向かって意見が違うってことは、良いことなんですよ。意見が違う人がぶつかった方が、より良いモノがあがる。だから、あえて、そういう状態にしてるところはありますよね」。

  共通の目的意識が重要。当たり前のことのようだが、同社では、その当たり前が実際に会社を支え、力を生み出している。

  「あとは、純粋に"ぶつかる"ってことだと思う。遠慮せずにね。ぶつかって本音で話してということを、早い段階でするのも、非常に重要だと感じてます」。
 

  実は、すでにその成果と思えるものが、いくつか生まれている。

  今年の9月から始まった、牛乳屋や、酒販店を通じたオフラインでの流通チャンネルも、その一つ。具体的には、毎週有機野菜や、こだわり野菜といった商品をパンフレットに掲載。それを牛乳屋や酒屋の配送時に配布してもらい、受注、配送を代行してもらうのだ。そもそもこの事業は、昨年6月に、福井氏が日商岩井で始めたもので、今年の9月から、完全にオイシックスの事業として移管された。

  「有機野菜とかこだわり野菜というのは、情報提供が不可欠なんですよ。量販店で商品を並べただけでは、どうしても"なぜこの大根が他の大根より値段が高いのか?"を、説明できない。確かにネットというのは、大きな可能性を秘めたツールです。でも、ネットに接続できない人は、どうすれば良いのかを考えた。そうすると、地域と密着した牛乳屋さんとか酒屋さんというのは、非常に有効だったわけです。我々としては、まず、お客様との接点を増やしたかった。配達と集金の時が唯一その接点なんですよ」。

 福井氏の思いは、「ネットに接続していない人」を常に大きく捉えている。だから生まれた発想であるし、それが結果的にオイシックスに対して、絶妙なバランス感覚をもたらしているのだ。実際に、この地域に密着したオフラインでの販売と、ネットによるオンライン販売が両輪となって、現在のオイシックスの収益を支えている。

  「やっぱりネットへのこだわりはありますよ。私は、ココでしかビジネス経験がないですから。ネットとかベンチャーとか全然はやってない時からずっと見てきた。だから、
最近マーケットで言われるように、"BtoCは駄目だ"とか聞くと、辛いし、寂しい。もっとも、インターネットは絶対に残るんですけどね。でも、ほっといたら残らないのも事実です。だからこそ残るモノにして行かなきゃいけないし、そういう意味でも、BtoCへの思いというのはすごく強いです」。

  高島氏個人としての、ネットに対するこだわりは、限りなく強い。それでも、同氏はこう付け加えている。

「でも、メンバーは、みんなBtoCが好きで、"普段の生活に深く入りこんだことをやっていきたい"という思いがあるから、一緒に会社をやっている。その実現のための手段は、リアルだろうが、バーチャルだろうが、もちろんこだわらないですよね。とにかく最終的には、みんなが、ハッピーな食生活を送れるようにしたいんです」。
 

 



そして・・・

取材を終えたあと、福井氏はこうつぶやいた。

「オイシックスは、もう食品会社になったんです。でもどうしても、ネット企業という意識がまだ高いんですよね」。ともすれば否定的とも捉われがちな発言も、筆者には、頼もしく響いた。

それは、「とにかく、みんなが豊かな食生活を送れるようにしたい」。という同氏の言葉を聞いた後だったからだし、その言葉に、カルチャーを越える"共通の目的意識"が、ハッキリとみえたからに他ならない。

リアルとバーチャル。ベンチャーと既存大手企業。"スピードとパワーの若者"と"経験豊富な熟練者"。そのカオスが巻き起こす、これからの「変革」に、多大なる期待を抱きたい。そう、できれば"面白がりながら"。




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http://www.cheers.ne.jp/hotnow/hn200006-01-02.html

オイシックス、取り扱い食材に関する社外監査組織「食質監査委員会」設立
http://www.cheers.ne.jp/venturenews/vn20000928-07ad.html

 


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